初の小説レビューです。

今回は2016年発売のNY在住のハニヤ・ヤナギハラによるデビュー作「森の人々」のレビューを。

半分ノンフィクション、半分フィクション。サイエンスをない混ぜにしたカオティックな世界観に場外ホームランでした。

作者の情報

作者 ハニヤ・ヤナギハラ
LA(現NY在住)
1975年生まれ
ジャンル 伝記(フィクション)

著者はLA生まれで現NY在住。名前は日系感あるけど、ハワイ系の人らしい。本作がデビュー作で、2013年頃にアメリカで大変話題になった作品です。

「森の人々」について

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ある科学者が目撃した
熱帯の島の悍(おぞ)ましい成人儀式、
そして食すと不老不死になる幻のカメ――

帯より

「森の人々」は、タイトルからイメージできるように、異国の世界で生きる人々についての話です。しかし、それを描くのは部外者の科学者であり、さらにその科学者の自伝(フィクション)形式になっています。

構想16年によって生まれた途方もない世界

まずこの小説、完成までに16年という年月を費やして作られています。というのも、ここで描かれる「ウ・イヴ」という国自体が存在しないものなんですよね。

国を作り歴史を作り、外部からの影響でどのように変貌していくかを描き…。とにかく世界観の構築が半端ないんです。

科学と空想の融合がスゴい!

リアルすぎる空想に加えて、小説の主人公A・ノートン・ペリーナ博士の”科学者”という職業が、リアリティの増幅に拍車をかけます。

伝記ものでありながらまるでSFを読んでいるかのような未開感に、快感を覚えます。

実話をベースに「不死」というスパイス

伝記自体はフィクションなのですが、作者の父の友人の半生を追ったノンフィクションでもあります(このあたりは「あとがき」に記載されています)。

現実には「不死」なんていうものはありませんが、小説・科学・空想の3つの力によって、フィクションの「不死」というスパイスが物語を鮮やかに彩ります。

「森の人々」のココが魅力

展開が二転三転して飽きがこない

500ページ以上あるんですけど、驚くほど飽きません。

自伝なので幼少の頃から話が始まるんですが、そこから科学者になり未開の地へ出向き自国でノーベル賞を受賞しウ・イヴの子どもたちを自国に連れ帰ってからの”家族”のストーリーへと繋がり、冒頭の事件へ帰結する。と、16面体を広げるがごとき展開力に脱帽。

また、そのときによって話の焦点をうまくズラしてくるので、まぁ飽きない。コース料理さながらの展開力(言いたいだけ)。

徹頭徹尾、空想が現実になっている

さすがに構想16年だけあって、作られた世界が「本物」になっています。

ある場所から出たことのない若者は、自分はいつか必ず、珍しい未開の地に行くのだと夢想する。だが、そんなところはまずない。世界中どこへいこうと、鳥、獣、果物、空、人間など、ほとんどのものは自分が見慣れたものにどことなく似ている。確かに、場所が変われば、それらも違うように見えるかもしれない。だが基本的な動きや性質は、だいたい同じである。 P.160より

途中にこんな文章があるのですが、まさにこれが言い表してくれています。”全く新しいもの”のように見えるけど、実は”既にどこかで見たことがある”ように感じる。「最早人間に未開の世界など存在しないのでは…?」と思わせるほど、未開がリアルなんです。

「森の人々」のココがあきまへん…

創作要素が多すぎて、敷居が高い

国や言語を作り上げ、さらに「不死」の理由や島の風習など、創作の要素が膨大な規模に及んでいるため、確実に敷居が高いです。大枠としては第7部まであるのですが、第三部まで読んでようやく飲み込めるようになるくらいでしょうか。

物語の性質上、仕方のないことかもしれませんが、これに耐えられず読むのを放棄する人は少なからずいるのではないかな、と感じました。

主人公に好感が持てない

これも問題ではあるのですが、主人公ノートンに今ひとつ好感が持てません

言っても大体の小説の主人公がいわゆる「良いヤツ」であることがそう多くないので、この点は僕はあまり気にならなかったですが。

自伝だという点もあるんでしょうね、この小説の場合。客観が少ない(脚色いれる人もノートン側)ので、どうしても自己弁護が目立つというか。

「森の人々」で震えた名セリフ・名コピー

町は、こうした一時的な滞在客を相手に繁栄した。(略)お金を商品と交換し、気持ちよく別れの挨拶を交わし、その後は二度と会うことがない。結局のところ、人生における人間関係はたいていそんなものだ。それが、何年も何世代もだらしなく引き伸ばされているに過ぎない。 P.47より

わりと序盤の段階でこういう描写をわざわざ書くあたりに、ノートンの人間性が伺えます。僕も人間関係に対してはめちゃくちゃドライなため、こういう視点には共感しちゃってるんですけどね…。

どちらに対しても、正しい考え方がたった一つとは限らないのだ。そんなことを言うと、私がいかにも世間知らずだったように聞こえるかもしれない。実際、私はそれまで、世界には絶対不変のものがあると思い込んでいたらしい。どんな場合でも悪いと言える行為(殺人など)があり、どんな場合でも正しいと言える行為があると信じていた。だが、イヴ・イヴ島での経験を通じて、どんな倫理や道徳も、一部の文化の中でしか通用しないことを学んだ。 P.250–251より

アインシュタインは「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションである。」と言いましたが、生きる世界によってそれは大きく変わりますよね。

頭で分かっていても、実際には分かっていない状態というのは「体験」が足りていないから生じるものであり、僕もきっと、世間知らずの一人なんだと思います。しかしまぁ、ここの文章でウ・イブという国がどういう世界なのかが見えてくきますよね。未開は未知であると。

おわりに

飽きずに最後まで突っ走れたし、ノンフィクション・フィクションの自伝という、ジャンル自体がSFな世界なので、楽しめる人と楽しめない人がキッパリと分かれそうな小説ですが、僕はかなり楽しめました。

アメリカではもう既に第二作目が出版されていて、そちらも好評なよう。今後も追っていきたい作家かな。

「森の人々」:77/100